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神奈川大学理学部化学科
神奈川大学大学院理学研究科化学専攻

研究内容RESEARCH

 当研究室では、高い機能性を持ち産業界はもとより私たちの生活に役立っている一方で、そのまま環境に放出すると悪い影響を及ぼす恐れのある化学物質について、熱水(亜臨界・超臨界水)反応や光化学(光触媒・光酸化剤等)反応を使って分解・無害化、さらには循環利用する技術について研究しています。熱水(亜臨界・超臨界水)と光化学反応については右のリンクをご覧ください。

主な研究テーマを以下に紹介します。
1. 有機フッ素化合物およびフッ素ポリマーの分解・再資源化反応の開発(熱水・光)
2. 過塩素酸イオンの分解・無機化反応の開発(熱水)
3. 新しい研究課題(熱水・光)

有機フッ素化合物およびフッ素ポリマーの分解・再資源化反応の開発


 炭素とフッ素から形成される有機フッ素化合物は耐熱性や耐薬品性、界面活性、光透過性等の優れた性質を持つため機能性材料として多くの産業で使われています。その種類は低分子化合物から高分子化合物まで多岐にわたります。分子量が百程度の化合物は冷媒等に、数百程度の化合物は界面活性剤や表面処理剤に、数万以上の化合物、すなわちフッ素ポリマーはパッキン等の汎用品は勿論のこと、イオン交換膜,光ファイバー,レジスト等の先端材料として利用されています。ペルフルオロアルキルスルホン酸類(PFCA類)やペルフルオロアルキルスルホン酸類(PFAS類)、およびそれらの塩類や誘導体は反射防止剤、表面処理剤、乳化剤、撥水剤等の構成成分あるいはそれらの中間原料として用いられてきました。

 ところが2000年ごろから一部の化合物が環境中や生物中に蓄積していることが報告されるようになりました。その典型がペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)およびペルフルオロオクタン酸(PFOA)です。PFOA/PFOSについては規制の進行に伴い代替物質への転換が進み、リスク評価の対象も現在では代替物質が中心になっていますが、代替物質も有機フッ素化合物であり環境残留性は変わりません。このような有機フッ素化合物の環境リスク低減のためには有害性の度合いに応じて排出や廃棄物、さらには汚染地下水・土壌等の無害化を行う必要があります。


 しかし、これらは炭素・フッ素結合から成り立っているため極めて安定で、汎用の促進酸化法ではほとんど分解しません。焼却は可能であるものの、高温が必要であるだけではなく、生成するフッ化水素ガスによる焼却炉材の劣化が問題となります。さらに、オゾンや過酸化水素、フェントン試薬、TiO2光触媒(汎用品)、微生物などを用いた従来の分解法ではほとんど分解しません。また、高エネルギー的な手法で無理に破壊するとペルフルオロイソブチレン(PFIB)やテトラフルオロメタン(CF4)のような出発物質よりもはるかに有害な化合物が発生する懸念もあります。

 また、有機フッ素化合物をフッ化物イオンまで分解・無機化する技術の開発は資源の循環利用の観点からも期待されています。フッ素ポリマーを含め全ての有機フッ素化合物の原料は高純度の蛍石(フッ化カルシウムの鉱物)ですが、近年、入手難の状況が続いています。フッ化物イオンまで分解できれば、カルシウムイオンとの反応でフッ化カルシウムに変換でき、フッ素資源の資源循環に寄与できます。   

 我々はこのような有機フッ素化合物を温和な条件でフッ化物イオンまで分解・無害化する化学反応を探索してきました。その結果、1)ヘテロポリ酸光触媒、2)ぺルオキソ二硫酸イオン+光照射、3)水・液体二酸化炭素2相系+光照射、4)鉄粉+亜臨界水、5)鉄イオン光触媒、6)ぺルオキソ二硫酸イオン+温水、7)酸素ガス+亜臨界水、8)ぺルオキソ二硫酸イオン+超音波照射等の種々の反応手法を開発し、フッ化物イオンまでの高効率な分解を達成しました。

これまでの研究結果の詳細を見る

過塩素酸イオンの分解・無機化反応の開発


 過塩素酸(HClO4)の塩類は主にロケットやミサイル燃料の推進剤、エアバック、火薬、花火等の構成成分として用いられています。また、リチウム電池の電解質や金属錯体触媒の対アニオン等にも使われています。

 しかし、2000年代後半から過塩素酸イオン(ClO4-)が環境水、飲料水や食品等に存在することが明らかとなり、その影響が懸念されています。ClO4-は甲状腺におけるヨウ素の取り込みを抑制する作用があり、多量に摂取した場合に甲状腺の機能を低下させる恐れがあります。そのため、適切な排水処理技術が必要とされています。

 ところが、従来の水処理技術をClO4-の処理に適用することは極めて困難です。オゾン法による酸化処理や、凝集沈殿、活性炭などによる分離・除去はあまり効果が期待できません。イオン交換樹脂での回収は可能ですが、使用後のイオン交換樹脂の廃棄する際に問題があります。したがって、ClO4-の抜本的な処理のためには無害な化学種、すなわちCl-まで分解する必要があります。

 従来のClO4-の処理に関する研究では、その消失をモニターすることを目的としており、Cl-まで本当に分解しているかが不明です。たとえば、水中のClO4-の分解技術で最も多く研究されている生物処理法では、ClO4-は、ClO4-還元酵素によりClO3-さらにはClO2-へ逐次的に還元され、ClO2-は不均化酵素によりO2とCl-へ分解します。しかし、使用する微生物、あるいはそれに関連する微生物の人体に対する影響はほとんど分かっておらず、飲料水への適用は社会の理解を得ることが大変難しいという指摘もされています。化学的処理として、鉄粉や鉄粉+エネルギー源による還元分解も検討されていますが、これもまたCl-の生成については述べられていません。また、鉄以外の金属の検討例もほとんどありません。

 そこで我々は高温高圧水に金属粉を組み合わせてClO4-をCl-まで還元分解することを検討しました。その結果を以下に記します。反応は以下のようにして行いました。
 まず、耐圧容器に不活性ガス雰囲気中でClO4-の水溶液(101 μM~204 μM)と金属粉を入れ、150°Cの高温高圧水の状態にしました。一定時間経過後、室温に戻して成分分析を行いました。比較のため金属粉を入れない場合についても実験を行いました。

 表1に150°Cで6時間反応させた場合の結果を示します。金属粉を添加しない場合、残存率は99%でほとんど反応していません(No. 1)。アルミニウムの添加も全く効果がありませんでした(No.2)。一方、銅、亜鉛、ニッケル、鉄を添加した場合には明らかに反応促進効果が見られました。特に鉄の場合が優れており、ClO4-は検出限界以下(残存率では1%未満)、Cl-収率は85%に達しました。

 上図右に鉄粉を添加して150°Cで処理した場合の反応の時間依存性を示します。ClO4-の減少は擬一次反応速度式に従い(k = 4.3 h-1)、1時間で検出限界以下になりました。一方Cl-収率は2時間でほぼ飽和し、最終的に6時間で85%に達しました。また、反応に伴い、鉄はFe3O4に酸化することがX線回折測定から分かりました。この方法を米国の花火大会後の環境水の分解に適用してみました。この試料は5.22 μM のClO4-を含んでいましたが、それよりはるかに高濃度のCl-(472 μM)およびSO42-(130 μM)を含んでいました。そのような共存物質の存在にかかわらず、反応後のClO4-濃度は0.03±0.01 μMまで減少し、99%以上のClO4-の除去に成功しました。

《関連論文》
H. Hori, T. Sakamoto, T. Tanabe, M. Kasuya, A. Chino, Q. Wu, K. Kannan, “Metal-induced decomposition of perchlorate in pressurized hot water”, Chemosphere, 2012, 89, 737-742. DOI: 10.1016/j.chemosphere.2012.07.003


新しい研究課題

CEO

 上記の研究課題に加えて、近年では下記のようなエネルギーや資源問題の解決に役立つ技術の開発にも取り組み始めています。

1.新規環境リスク懸念物質の分解・無害化反応の開発

2.可視光応答光触媒を用いた有機硫黄化合物の除去

3.水中から希少金属を回収する方法の開発(左写真)

 医学が進歩しても病気がなくならないように、環境問題を起こしそうな物質もなかなか無くなりません。これらの活動により、資源循環型の産業・社会システムの構築に少しでも貢献できればと思っています。


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