触媒・スイッチング・電子伝達といった機能を担う遷移金属錯体を探索しています。
概要
地球上の生命は、長い年月をかけて金属元素をうまく利用する仕組みを発達させてきました。私たちも合成化学を駆使して金属元素を利用しますが、地球上で圧倒的な存在感を示す「鉄」ですら、その能力を十分に引き出せていません。当研究室では、触媒・スイッチング・電子伝達といった機能を担う遷移金属錯体を、独自の分子設計に基づいて探索しています。
研究内容
(1) 遷移金属と有機π電子系の融合
遷移金属錯体とπ電子系有機化合物に共通する特徴の一つに「酸化・還元(レドックス)」があります。遷移金属と有機π電子系を合理的に融合することで、dπ-pπ相互作用に基づく新たなレドックス機能の発現が期待できます。そこで、優れたπ電子系材料であるチオフェン類に着目し、それらのC-S結合に遷移金属を挿入したメタラサイクル化合物を設計・合成しています。
最初に取り組んだのはジベンゾチオフェンですが、そのC-S結合は反応性に乏しいので、金属を挿入するには工夫が必要です。そこでC-S結合の近傍にピリジル基を導入した誘導体を用いて反応を促進することにより、N,C,S-三座配位子をもつルテニウム錯体やロジウム錯体を合成しました[Organometallics, 2008, 27, 4475]。
最初に取り組んだのはジベンゾチオフェンですが、そのC-S結合は反応性に乏しいので、金属を挿入するには工夫が必要です。そこでC-S結合の近傍にピリジル基を導入した誘導体を用いて反応を促進することにより、N,C,S-三座配位子をもつルテニウム錯体やロジウム錯体を合成しました[Organometallics, 2008, 27, 4475]。

次に、地殻に豊かに存在する「鉄」の利用に着手しました。ピリジル基の他にシッフ塩基やオキサゾリンを導入したジベンゾチオフェン誘導体を用いて、炭素と硫黄で架橋した二核鉄錯体を合成しました。これらの二核鉄錯体がヒドロゲナーゼの機能モデルとなることを見出しています[Organometallics, 2012, 31, 7548]。


単環チオフェンの場合は、キノリル基を導入しておくことでメタラサイクル鉄錯体が安定化されることがわかりました。メタラサイクル上への置換基導入やオリゴチオフェンの利用が可能となるため、第一遷移金属とチオフェン類を融合した新たな物質群の創出が期待できます[Organometallics, 2017, 36, 2228]。
(2) 外部刺激に応答する第一遷移金属錯体の創製


(3) 金属錯体を基盤とする超分子反応場の構築
光合成の酸素発生中心にみられるMn4CaO5クラスターや、ヒドロゲナーゼおよびニトロゲナーゼに見られるFe-Sクラスターでは、その構造を精密に制御することで触媒機能が発現しています。そこで、キサンテン骨格によって架橋されたシッフ塩基配位子や三脚型配位子を設計し、多核金属錯体の構造を制御することで機能開発を行っています。これまでに、四段階の酸化還元過程を示すマンガン四核錯体、スルフィドの不斉酸化触媒能をもつマンガン二核錯体、金属イオン捕捉能をもつ二核錯体などを報告しました[Inorg. Chem., 2012, 51, 766; Dalton Trans., 2010, 39, 139; Dalton Trans., 2013, 42, 12220]。

その他、四電子還元された窒素分子が配位したチオラート架橋Ta2M2(M = Mo, Cr)錯体の単離にも成功しています[Organometallics, 2011, 30, 4232]。


その他、四電子還元された窒素分子が配位したチオラート架橋Ta2M2(M = Mo, Cr)錯体の単離にも成功しています[Organometallics, 2011, 30, 4232]。