「人」「反応」「モノ」が三位一体となった「ものづくり」

家を作るとしましょう。
材料だけでは家はできません。道具とそれを正しく扱える人が必要です。

われわれの研究では、「家」は「生成物(モノ)」、「道具」は「反応」、「正しく扱える人」は「研究者」です。
この「反応」と「人」が揃ってこそ、良い「モノ」ができます。

「道具」を使いこなすためには訓練が必要です。間違った使い方をすると、ほしいものができないばかりか、怪我をするかもしれません。
最初は上手くいかないこともあるでしょう。しかし、なぜ上手くいかないのか、しっかり観察・記録し、次はどうすれは良いのかを考えて克服することが重要です。
訓練を重ねて身につけた力と自分たちのオリジナルの「道具」を使うことで、世界中でこれまで誰も作ったことのないスゴイ機能をもつ新物質を作ることができる。これが醍醐味です。

このように当研究室では、機能性物質と反応の両方の開発と、研究者の育成に取り組んでいます。
分子や集合体の構造と機能の相関を理解し、合目的な設計を行い、理想的な形を「実体」として作り上げる。そのプロセスを通じた学びによって成長が実感できることでしょう。

分野としては、 有機金属化学・元素科学・合成化学・物質科学などと分類できるでしょうが、ひとことで言うと「ものづくり」です。

現在の主な研究テーマは、クリーンな化学変換触媒の開発、環境中や生体内ではたらく機能性物質の開発、自然エネルギー利用のための新材料の開発です。これらによって、持続性可能な開発目標(SDGs)への貢献を目指しています。

新学術研究領域研究「水圏機能材料~ 環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成(2019~23年度)」に参画しており、最先端計測、シミュレーション、デバイス応用、環境・生体応用などの分野の研究者や学生との交流の機会が定期的に設けられています。
最新の研究に触れる機会であり、 他の大学・研究所等の人とのつながりもできます。また、国内外の他分野や大型研究施設の研究者との共同研究によって、自分たちが作った物質が活き活きとはたらくところを見ることができ、「物質の作者」としての醍醐味も味わえます。
*新学術研究領域研究「水圏機能材料」のHPは→こちら

これまでの主な研究成果を下に示します。
さらに詳しくは、発表論文のページも参照して下さい。
神奈川大学の広報誌 PROUD BLUE (vol. 7) に辻教授のインタビューが掲載されています。そちらもご覧下さい [PDF]


これまでの主な研究成果(ハイライト)

"Single-crystalline Optical Microcavities from Luminescent Dendrimers"
Angew. Chem. Int. Ed. 2020年(筑波大・山本教授、九州大・アルブレヒト准教授らとの共同研究)

Colin Herzberger君(クラウスタール工科大学からの短期留学生)と佐藤雄治君(2019年修士卒)らが合成した、剛直平面構造をもつ炭化水素分子COPVと樹状部位(デンドロン)が連結した巨大分子のマイクロ結晶からレーザー発振に成功しました。樹状部位が光アンテナとして機能することで、COPV部位に効率的にエネルギーが捕集され、マイクロ結晶がキャビティとして働くことでレーザー発振が起こることがわかりました。微小レーザー光源や、光回路、化学・バイオセンシングへの応用が期待できます。→ 論文を見る

関連リンク:神奈川大学プレスリリース日本の研究.com

"Coherent Resonant Tunneling Electron Transport at 9 K and 300 K through a 4.5 nm Long, Rigid, Planar Organic Molecular Wire"
ACS Omega 2018年(東工大・真島教授らとの共同研究)

剛直平面構造をもつ自開発分子「COPV」(a)は、分子中を電子が流れるのに理想的な構造をもっています。実際に、電子が分子の中を「どのように」「どれぐらい」流れるかを研究するため、金ナノギャップ電極(b)を使った測定を行いました。解析の結果、分子と電極の接合が何種類かあり(c)、SAuSH型のものでは共鳴トンネルという機構によって電流が流れていることがわかりました。9Kという極低温での観測に加え、300Kという室温付近でもこの現象が観測されました。分子ワイヤで4.5 nmという長距離共鳴トンネルが室温で観測されたのは世界初です。1個の分子で電流のON/OFFができる分子トランジスタなどへの応用が見込まれます。→ 論文を見る

関連リンク:神奈川大学プレスリリース


"Carbon-bridged oligo(p-phenylenevinylene)s for photostable and broadly tunable, solution-processable thin film organic laser"
Nature Communications 2015年(スペイン Diaz-Garcia教授らとの共同研究)

COPV(炭素架橋オリゴフェニレンビニレン)と名付けた独自開発の分子は、高い発光効率と安定性を持ちます。分子の長さに応じて、青色から橙色まで発光色を変えることも可能です。これらの性質を利用して、有機固体レーザーの発光材料へと応用したところ、レーザーの高効率化・長寿命化に成功しました。特に、橙色発光を示すCOPV6という材料を用いた場合には、低い閾値、高い利得係数、空気中での長寿命を実現し、既存の有機色素を凌駕する高いトータル性能を達成しました。→ 論文を見る
関連リンク:JSTプレスリリース


"Electron Transfer through Rigid Organic Molecular Wires Enhanced by Electronic and Electron-vibration Coupling"
Nature Chemistry 2014年(ドイツ Guidi教授らとの共同研究)

COPV分子(図中の黄色い部分)を介した電子移動速度を測定したところ、既存のフェニレンビニレン分子に比べて840倍程度も速くなることを発見しました。高速化の要因としては、COPVの剛直な平面構造に由来して、電子供与体(電子を提供する物質)と電子受容体(電子を受け取る物質)間の電子的な相互作用(電子的カップリング)が増大したことと、非弾性トンネリングと呼ばれる非線形効果が関与していることを示唆する結果を得ました。→ 論文を見る

関連リンク:JSTプレスリリース
解説記事:News & Views (by. J. R. Miller, Nature Chem. 2014, 6 (10), 854–855.),Chemistryworld (RSC).

参画中のプロジェクト

科学研究費助成事業 新学術領域研究「水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成」(2019-23年度)、計画班

終了したプロジェクト

科学研究助成事業 新学術領域研究「π造形科学」(2015-18年度、公募班)
日本化学会新領域研究グループ「有機化学を起点とするものづくり戦略」(2011-18年)
JSTさきがけ「新物質科学と元素戦略」(2011-15年度)
科学研究助成事業 新学術領域研究「高次π空間の創発と機能開発」(2009-12年度、公募班)