分野の垣根を越えた新しいものづくりに一緒にチャレンジしましょう

当研究室では、世の中の役に立つ物質の開発を目指しています。

実験・計算・評価を三位一体とした研究体制によって、機能性を最大限発揮できる「形(=構造)」を追求します。言い換えれば、優れた機能を発揮させる理想的な物質を「実体」として創作する活動です。研究活動を通じて、「物質の作者」としての醍醐味を味わえます。

元素の特性を活かした新物質創製という「元素科学」のコンセプトを基盤として、炭素、典型元素(ヘテロ元素)、金属を広く扱います。元素を上手く使って、次世代機能材料の開発、環境中や生体内ではたらく機能性物質の開発、自然エネルギー利用のための新材料の開発、クリーンな化学変換の開発へとつなげ、持続性可能な開発目標(SDGs)をはじめとする社会貢献や基礎科学の発展を目指しています。

研究活動を通じて、実験技術と科学知識の修得はもとより、問題解決能力やプレゼンテーション能力も鍛えられます。最新の分析・精製装置などにも触れられます。学会にも積極的に参加・発表します。大学院生は国内外の他の大学への留学の機会もあります。

実験が好きな人、大学院に行きたい人、企業・大学の研究者になりたい人、理科の教員になりたい人、「光り物」を作ってみたい人、次世代材料を開発したい人、環境調和型材料やプロセスに興味がある人、装置を触りたい人、学会で発表したい人、海外の雑誌に論文を出したい人、分野の垣根を越えた研究に興味がある人、是非われわれと一緒に研究しましょう!

これまでの主な研究成果を下に示します。
さらに詳しくは、発表論文のページも参照して下さい。
神奈川大学の広報誌 PROUD BLUE (vol. 7) に辻教授のインタビューが掲載されています。そちらもご覧下さい [PDF]


これまでの主な研究成果

世界最高レベルのゼーベック係数をもつ有機熱電材料
"Giant Seebeck effect in an undoped single crystal of 2,5,8-triphenylbenzo[1,2-b:3,4-b':5,6-b'']trifuran"
Chemistry Letters 2024年(奈良先端・中村・小島グループ、富山高専・山岸グループとの共同研究)

熱エネルギーはエントロピーが増大した果ての残念なエネルギーと見なされ、「熱はエネルギーの墓場」とまで言われています。そのような熱エネルギーを電気エネルギーに変える熱電変換に注目が集まっています。われわれの共同研究チームは、岡山勝成さん(2021年学部卒)らが作製した3回対称の平面構造をもつ分子ベンゾトリフランが、未ドープの結晶状態で-239mV/Kという世界最高レベルのゼーベック係数を示す熱電変換材料として機能することを見出しました。


水-THF中における疎水性分子の集合状態を中性子小角散乱などを使って観察。集合構造と発光機能の関係が明らかに
"Water Fraction Dependence of the Aggregation Behavior of Hydrophobic Fluorescent Solutes in Water-Tetrahydrofuran"
J. Physical Chemistry Letters 2023年(阪大・中畑助教、東京理科大・菱田准教授、高エネ研 瀬戸教授、JAEA 元川博士らとの共同研究)

「水と油」と言われるように、油(脂)の性質が強い物質は一般に水には溶けません。疎水性分子を溶かしやすく、水にも任意の割合で混和する両親媒性溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)を用いると、疎水性分子がナノスケールの集合体を形成して水中に分散することがあります。今回、水-THF 混合溶媒の含水率を変化させて、中性子小角散乱、広角X線散乱、動的光散乱等の様々な測定を行い、疎水性発光分子の集合体の構造を観察しました。その結果、溶媒中の水の体積分率が約 50%では発光分子が「緩い集合体」を形成し、水の割合が増加するにしたがって「密な集合体」へと変化することを明らかにしました。これらの集合体同士が集まって、より大きな集合体を形成するという階層構造を有すことも示唆されました。また、集合状態変化と発光強度変化との対応も明らかにしました。この構造ー機能相関の知見を分子集合体形成制御技術へ応用することで、有機ELや有機レーザーなどの表示・照明デバイスの効率向上、薬物輸送システムの効率化による薬効の改善など、広汎な応用が期待できます。
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関連リンク:神奈川大学プレスリリース


フォトニクス機能のスイッチングに成功
"Solvent-Dependent Growth of Rigid Styrylstilbene Dicarboxylic Acid Microcrystals as Bent Waveguides and Microlasers"
Adv. Photonics Res. 2023年(筑波大・山本グループとの共同研究)

長谷部駿也さん(2016年学部卒)らが開発した剛直平面構造炭化水素分子COPVのジカルボン酸が、水素結合によって一次元ネットワーク構造を形成することを見出しました。結晶化の溶媒を変えることで結晶の形状が変化し、形状に応じて結晶レーザー光源や光導波路という異なる応用ができることがわかりました。
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発光材料のコア骨格の形成
"Preparation of 2,3-Dibromo-1H-indenes and Tetrabromodihydro-s-indacenes as Synthetic Building Block"
J. Org. Chem. 2022年

優れた機能を持つ新しい材料を開発する際に、既存の反応では上手くいかないことがあります。そのような時は自分たちで反応を見つけるしかありません。岩田啓佑さん(大学院在籍中)が、インデンとインダセンという炭素骨格の形成方法を開発しました。インデンやインダセン骨格上に置換基を自在に導入できる点が特徴であり、この反応を用いることで、これまでの方法では作れなかった高効率発光性分子などの合成が可能になりました。この反応をもとに、さらなる新しい材料の開発に現在取り組んでいます。
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光を集めるレーザー材料
"Single-crystalline Optical Microcavities from Luminescent Dendrimers"
Angew. Chem. Int. Ed. 2020年(筑波大・山本教授、九州大・アルブレヒト准教授らとの共同研究)

Colin Herzbergerさん(クラウスタール工科大学からの短期留学生)と佐藤雄治さん(2019年修士卒)らが合成した、剛直平面構造をもつ炭化水素分子COPVと樹状部位(デンドロン)が連結した巨大分子のマイクロ結晶からレーザー発振に成功しました。樹状部位が光アンテナとして機能することで、COPV部位に効率的にエネルギーが捕集され、マイクロ結晶がキャビティとして働くことでレーザー発振が起こることがわかりました。微小レーザー光源や、光回路、化学・バイオセンシングへの応用が期待できます。
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関連リンク:神奈川大学プレスリリース日本の研究.com


共鳴トンネル現象を室温で観測
"Coherent Resonant Tunneling Electron Transport at 9 K and 300 K through a 4.5 nm Long, Rigid, Planar Organic Molecular Wire"
ACS Omega 2018年(東工大・真島教授らとの共同研究)

剛直平面構造をもつ独自開発分子「COPV」(a)は、分子中を電子が流れるのに理想的な構造をもっています。実際に、電子が分子の中を「どのように」「どれぐらい」流れるかを研究するため、金ナノギャップ電極(b)を使った測定を行いました。解析の結果、分子と電極の接合が何種類かあり(c)、SAuSH型のものでは共鳴トンネルという機構によって電流が流れていることがわかりました。9Kという極低温での観測に加え、300Kという室温付近でもこの現象が観測されました。分子ワイヤで4.5 nmという長距離共鳴トンネルが室温で観測されたのは世界初です。1個の分子で電流のON/OFFができる分子トランジスタなどへの応用が見込まれます。
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関連リンク:神奈川大学プレスリリース

新しい有機レーザー材料の開発
"Carbon-bridged oligo(p-phenylenevinylene)s for photostable and broadly tunable, solution-processable thin film organic laser"
Nature Communications 2015年(スペイン Diaz-Garcia教授らとの共同研究)

COPV(炭素架橋オリゴフェニレンビニレン)と名付けた独自開発の分子は、高い発光効率と安定性を持ちます。分子の長さに応じて、青色から橙色まで発光色を変えることも可能です。これらの性質を利用して、有機固体レーザーの発光材料へと応用したところ、レーザーの高効率化・長寿命化に成功しました。特に、橙色発光を示すCOPV6という材料を用いた場合には、低い閾値、高い利得係数、空気中での長寿命を実現し、既存の有機色素を凌駕する高いトータル性能を達成しました。
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関連リンク:JSTプレスリリース


電子移動における非弾性トンネル現象を観測
"Electron Transfer through Rigid Organic Molecular Wires Enhanced by Electronic and Electron-vibration Coupling"
Nature Chemistry 2014年(ドイツ Guidi教授らとの共同研究)

COPV(図中の黄色い部分)をブリッジとして、電子供与性のポルフィリン、電子受容性のフラーレンを連結した3元系について電子移動速度を測定したところ、既存のフェニレンビニレン分子に比べて840倍程度も速くなることを発見しました。高速化の要因としては、COPVの剛直な平面構造に由来して、電子供与体(電子を提供する物質)と電子受容体(電子を受け取る物質)間の電子的な相互作用(電子的カップリング)の増大と、非弾性トンネリングと呼ばれる効果の関与を示唆する結果を得ました。
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関連リンク:JSTプレスリリース 解説記事:News & Views (by. J. R. Miller, Nature Chem. 2014, 6 (10), 854–855.)Chemistryworld (RSC).


これまでに参画したプロジェクト

科学研究費助成事業 新学術領域研究「水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成」(2019-23年度、計画班)
科学研究費助成事業 新学術領域研究「π造形科学」(2015-18年度、公募班)
JSTさきがけ「新物質科学と元素戦略」(2011-15年度)
科学研究助成事業 新学術領域研究「高次π空間の創発と機能開発」(2009-12年度、公募班)