○青木 孝のホームページ.

写真(左3つ)電極式イースト発酵パンと同じ2次発酵生地をオーブン(5等分)で焼いたもの、(右2つ)立てた対向極板と底置きの極板で炊いたもの

電極式は、ジュール熱による水の沸騰熱が熱源で、100℃までしか上がらないので、 電極式のイースト発酵生地に通電した白いパンは、かえってイーストの香りがきわだち、おいしい。 同じイースト発酵生地を、外から加熱するオーブンで焼く場合には、 オーブンを190℃まで10分間で予熱して、さらにその190℃のオーブンで 19分間焼き、合計29分かかる。焼き色がつく。 しかし、電極式は生地自体が熱くなるので、熱効率が約70%と良い。 同じイースト発酵生地を予熱なしにそのまま11分通電するだけである。 熱効率が11分と29分の差に表れる。
また、おはちの底に櫛の歯形のチタン極板を配置して、極板間隔を1cmに程度にせばめて、 水道水でも炊飯できるようにした、自作「たからおはち」(1合)は、 熱源が底にしかないので、 均等に炊飯できず、まずく、さらに、 底に水蒸気の泡がつき、電流を阻害するので、50%ほど 電流がふらつき不安定になる。 旧陸軍より先に昭和9年に特許をとった、おはち型炊飯器は、戦後、製品化される わけであるが、まずいし(食べられる)、電流も不安定だったはず。 電極式は電流制御がむずかしいので、万人向けではない。 それに比べ、旧陸軍の立てた極板では、横から均等に炊飯でき、おいしい。 さらに、電流が不安定になることもない。立て型の方が性能がよい。 ただし、極板間隔が6cmあるので、水道水では電流は流れないので、 0.4gほど塩を入れる。

●研究1:「電極式パン(電気パン)と電極式炊飯」: いわゆる「電気パン」という極板型パン焼き器は、第2次世界大戦後、物資の少なかった時代に、家庭で自作され かなり広く用いられた。

 昭和9年1月に日高周蔵が、釜の底に 短冊形や同心円形の極板を配置し、直に米を入れて炊く飯炊法の特許116015を出願する。 同年(昭和9年)6月に旧日本陸軍が立てた対向極板で直に米を入れ炊飯する実用新案235674 (発明者:阿久津正蔵)を出願する。昭和10年に陸軍において、阿久津正蔵は立てた対向極板 による電極式パン焼き装置を発明する。その後、炊飯用の極板をパン焼きにも転用できるように 改良し、「金はいくらかかってもよい。パンも焼け、炊飯もできる給養車を作れ」という陸軍の 命令に対して、昭和12年に電源設備も含めたシステムとしての97式炊事自動車として実用化し、 電極式技術を結実させる。実際には昭和14年版の給養器具取扱説明書綴りの中の97式炊事自動車の 取説には、炊飯手順の記載しかなく、パン焼きは兼用できたがその使用は限定的だったと考えられる。 同じ給養器具取扱説明書綴りの中に、カマドによるパン焼き手順の記載があることから、この方法が 通常だったことになる。
 第2次世界大戦後、昭和21年には電気パン焼き器が紹介され、 木枠に立てた対向極板間に100Vの交流電源をかけるだけの 電気パン焼き器は家庭で自作されかなり広く用いられた。 業務用には、小麦粉が自由に売買できるようになると、 パン粉販売へ転向するメーカーもでて、現在でも市販のパン粉の半分は、 電極式パン粉として残っている。工場では、200V電源で、ポリプロピレンケースに 50cm×50cm程度の極板を極板間隔12cm程度で対向させて焼いている。 パン粉は、日本で発展した食材であり、電極式製パン法は日本独特のものであり、 米国等へパン粉および生産方式も輸出され、「PANKO」は英語になった。 電極式では、極板の電蝕が問題となるが、昭和63年全国パン粉工業協同組合連合会の 清水康夫らの努力によって、純チタンを極板に使うことを国に認可させ、 これを解決した。電極式では、焼くわけではなく、沸点100℃にしかならないので、 白いパン粉となり、冷凍食品の衣に使われ広まった。イースト発酵生地に通電して 作る電極式パンは、焼くわけではないので、かえってイーストの香りがきわだち、 おいしい。

 一方、戦後の昭和21年4月に、厚生省内の財団法人である国民栄養協会が、 昭和9年の日高周蔵特許の同心円形底置き極板の電極式炊飯器を 製品化して市販する。 昭和21年10月号の国民栄養協会の月刊誌「食生活」には、 2、3の類似品があると記述があり、広まっていたと考えられる。 神奈川県平塚市の旧海軍火薬廠にあった唯一現存する厚生式電気炊飯器の取説に記載のある 製造元は、東京都品川区で、発売時の「食生活」の昭和21年4月号に記載のある製造元は、 名古屋市であり、製造元も広い。昭和22年7月出版の「家庭の電化(関重廣著)」には、 最近の電熱界の傑作であると述べ、当時市販されていた極板形が紹介され、そのうち1つは 厚生式炊飯器である。
 昭和9年の日高周蔵特許の極板形を櫛の歯形に 改良した実用新案359047が、昭和21年3月に出願され、 「たからおはち」として昭和22年頃には広く市販されたと推定できる。 この「たからおはち」は、愛媛県、大阪府をはじめ少なくとも4個現存する。 厚生式電気炊飯器の前後に追従して様々市販された。 厚生式電気炊飯器(5合用)の取説には、陸軍のもつ 技術を家庭用に転用した、昭和9年の日高周蔵特許を 国民栄養協会が譲り受け製品化したと記述してあるが、日高周蔵特許に陸軍との 関係はなく、その確認は取れない。日高周蔵と陸軍と阿久津正蔵の関係は全く不明である。 戦後のSONYの電極式炊飯器は、極板をアルミにしたため失敗した。通電後、アルミ酸化膜が 電流を低下させてしまう。

 神奈川大学理学部では、29年前から物理学学生実験の1つとして、木型に極板間隔6cmの 対向極板を立て、ふくらし粉の液状生地を入れた電極式パン焼き器における性能評価を させている。 その結果、加えた電気エネルギーに対する水の蒸発熱(調理に使われたと考える) の比すなわち熱効率が約70%であることが分かった。 火力発電所の熱効率が約35%なので高効率である。 これが、電極式が外から加熱する焙焼式(オーブン)に比べ、釜の予熱も必要なく 経済的なうえ、設備も小さくでき新規参入し易かったので、関西で広まった理由である。
 また、電流を担うイオン源が100℃の水の蒸発と共に析出し、 勝手に電気が切れるという優れものである。 時系列の電流変化は、でんぷんの糊化の進行に伴い、2つのピークを持つことを 明らかにした。糊化開始温度で、でんぷんが吸水を始め、電流が下がる(第1ピーク)。 糊化終了温度で、でんぷん粒の吸水による膨張が最大になり破裂する(最底の電流)と、 再び電流は上昇し、水温が100℃近くになると蒸発によりイオン源が析出するので、 電流は下がる(第2のピーク)。小麦、米等で、でんぷん種が違えば、糊化の開始と終了の 温度帯が異なるが、2つのピークができるメカニズムは同じである。 炊飯では、電流が少なく火力が弱いと、第2ピークしかわからず1山に見える。 米は粒食であるが、小麦は粉食なので、ふくらし粉やイースト発酵等が必要になる。
 電極式は、イオン源を含む、水のジュール熱で調理する(生地自体が発熱)ものなので、 100℃以上にならない。 極板を底置きにすると、発熱源が底にしかなく、上部に熱が伝わりにくいので、 均等に炊けない上に、 底の水蒸気の泡が極板に付いて電流を阻害し、不安定になる。 しかし、立てた対向した極板では生地に均等に全面に加熱できるので、 炊飯はおいしくでき、電流も不安定にならない。羽釜は理にかなっている。 水道水だけの調理では、極板間隔が広いと電流が流れにくい。 極板間隔を狭める工夫が、底に極板間隔を狭めて1cm程度に配置する方法である。 その対向距離を長くする極板形状の工夫も必要となる。 立てた対向極板では、塩等のイオン源が必須である。
 その後、神奈川大学では、立てた対向および底置きの配置で、 チタン極板を使った、液状パン生地(蒸しパン)、イースト発酵パン生地(食パン)、 炊飯の再現実験を行った。 電極式調理における、液状パンの出来上がり時間は8分、イースト発酵パンは11分、 炊飯は23分である。 イースト2次発酵させた(電極式と)同じパン生地を焙焼式で作る場合は、 電気オーブンを10分間で190℃まで予熱した上で、同190℃で19分焼く。 電極式の方が熱効率が良いことが表れる。

○研究1の参考文献:
(1)青木 孝 (2018) 電極式パン焼き器を使った炊飯実験の特性理解. 神奈川大学理学誌 29:5-12.

(2)青木 孝 (2019) 電極式調理の発明からパン粉へ続く歴史および再現実験. 神奈川大学理学誌 30:9-16.

(3)青木 孝 (2019) 電気パン焼き器によるパン焼き及び炊飯再現実験と特性理解. 昭和のくらし博物館資料.

(4)青木 孝 (2019) 電極式炊飯器および電極式パン焼き器と、その後の電気炊飯器の変遷. 熊谷家住宅「パンと昭和」展資料.

(5)青木 孝 (2019) 電極式調理のレシピ集. 昭和のくらし博物館資料.

●研究2:「音速測定実験」:  神奈川大学理学部の物理学学生実験の1つで、音速値測定実験を行い、理論値とその測定誤差を検討させている。 良く知られる音速理論値:「331.4+0.6t(m/s) tは摂氏気温(℃)」は、湿度0%を仮定しており、 測定時の湿度により誤差が変動することが確認できた。理論式に湿度を検討する際に、 丸善(株)が出版する「理科年表」を参考にしたところ、 水蒸気(100℃)の音速値データがおかしいのに気づき、問い合わせた後、2009年度版から改訂された。 404.8(m/s)が、正しく473(m/s)になった。1975年の高校参考書の水蒸気(100℃)音速データが、 改訂前の音速値と同一で、おそらく理科年表データを転載したと思われるので、少なくとも35年前から、 誤ったデータが掲載されていたことになる。
また、実験導入にあたり、音波の周波数に関連した、音律と音階の物理について説明した。 その際に「なぜ、A音(ラ)からチューニングするのか?」という疑問が付きまとった。調べた結果、 300年前に完成形となったヴァイオリン系楽器が歴史上の到達点であるという観点と、 音律の変遷を照らし合わせ、その関係性から納得できる理解をした。

○研究2の参考文献:
(1)青木 孝 (2011) 理科年表にある水蒸気(100℃)の音速値の改訂. 神奈川大学理学誌 22:18-25.

(5)青木 孝 (2016) ヴァイオリンをA音からチューニングする根拠の理解.

●研究3:「数値シミュレーションとしてのn-MOSデバイスシミュレーション」:  神奈川大学理学部の物理学学生実験の1つで、PN接合シリコンダイオードの電流と電圧特性を調べる実験がある。 当大学理学部の村田健郎研究室で、n-MOSデバイスシミュレータ(数値シミュレーション)を1から作成した 経験があり、単純なPNシリコンダイオードのデバイスシミュレータを作成すれば、 求めたい電流特性はもちろん、電位やキャリア濃度などの数値的把握も容易になり、 学生の実験への理解の手助けが提供できると考えた。また、今まで、PNシリコンダイオードの デバイスシミュレータをわざわざ作成した文献を見たことがないというのも動機となった。 村田は、数値シミュレーションを、次の3段階から見よという。

(1)現象のモデル化:偏微分方程式の問題に表現
(2)上記問題を解く:離散化と数値解析(ソルバを含む)
(3)得られた結果を目的に照らして評価する:モデルの当否、解法の当否を含む

そしてこれら一連のプロセスを完結してはじめて数値シミュレーションも完結するという特徴をもつ。 ここでは、積分方程式が保証する保存則を満足するよう(0.001%以下の精度)に離散化できるCV法の利点と応用例を示す。

○研究3の参考文献:
(1)村田 健郎 (1999) CV法と、手作り数値シミュレーションシステムの奨め(第4回)-連立非線形移流拡散系: 半導体デバイス解析の場合. 計算工学 4:27-34.

(2)青木 孝 (1995) n-MOSデバイス数値シミュレーションの基本技法. 神奈川大学理学研究科修士論文.

(3)青木 孝 (2013) PNシリコンダイオードのデバイスシミュレーションと電流測定値の比較. 神奈川大学理学誌 24:109-134.
○ pndio1.f のプログラムソース.

(4)青木 孝 (2010) 電子のエネルギーバランスを考えたn-MOSデバイスシミュレーション(smic3).

(5)青木 孝 (1998) n-MOSデバイスシミュレーションにおけるGR項の電場依存モデルの検討.

(6)青木 孝 (1999) ホットエレクトロンから見たDDDとLDD構造のn-MOSデバイスシミュレーションによる性能比較.

(7)青木 孝 (2001) 数値シミュレーションの基礎(1) -温度分布の拡散系-.
○ h10p.f のプログラムソース.

(8)青木 孝 (2003) 数値シミュレーションの基礎(2) -たてブロックガウス-.

(9)青木 孝 (2005) 数値シミュレーションの基礎(3) -移流拡散系と指数法-.

(10)青木 孝 (2007) 数値シミュレーションの基礎(4) -台形法とCV法と不均等あみ目-.
○ h20p.f のプログラムソース.

(11)青木 孝 (2009) 数値シミュレーションの基礎(5) -2重プロセスのCPU性能比較-.

(12)青木 孝、村田 健郎 (1994) キャリヤ生成結合項がn-MOSデバイスの数値シミュレーション上に及ぼす影響と問題点. 情報処理学会研究報告94-HPC-54:23-30.

●研究4:「PHASEを用いた解析計算と実験比較」:  神奈川大学理学部の水野智久研究室では、Si薄膜の物性研究をしている。 励起光532nmレーザー(2.3eV)による薄膜(2次元Si)のPL発光実験では、バルクSiでは (100)、(110)ともにPL発光しなかったものが、1nm以下に薄膜化すると、(100)Siのみ、 PL発光することを検証している。これは(100)Siだけ、薄膜化によりバンド変調を起こし、 PL発光していると考えられるが、それを、薄膜化に伴う第1原理計算PHASEのバンド構造解析 計算を行うことにより、実験と良く合う結果を再現した。

○研究4の参考文献:
(1)青木 孝 (2015) PHASEを用いた二次元Siのバンド計算と実験比較. 神奈川大学理学誌 26:17-21.

(2)青木 孝 (2016) Pドープ二次元Siバンドナローイング計算と実験比較.

(3)青木 孝 (2016) PHASEによる二次元Siのフォノン計算と実験比較.

(4)青木 孝 (2017) PHASEによる二次元SiC,SiGeのバンド計算と実験比較.