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Author: 海谷 治彦
Source: 博士論文, 東京工業大学, 02859 ?, 〒152 東京都目黒区大岡山2-12-1, Jun. 1994.
博士(工学) (東京工業大学,工博第2033号)
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公聴会の様子: 1994年3月1日(およそ108分,音が多少小さい) 発表編 MP4 870 MB, 質疑編 MP4 427 MB.
本論文は,

「ハイパー議事録システムに関する研究」

と題し, 7章から成っている.
第1章「はじめに」では, 従来の共同作業,特に会議などの対面式の作業を 計算機システムで支援する方法には,いくつかの問題点があることを述べている. その問題点を克服した会議支援システムであるハイパー議事録システムを提案し, 実作業のプロトコル分析の結果を基盤とした適用性の高い システムを構築することが本研究の目的であると述べている. 章末で本論文の構成を示している.
第2章「実作業の分析」では, 本システムを構築するための基礎となる,会議のプロトコル分析について述べている. この分析では, ビデオカメラを用いて記録した実際の会議の様子を分析対象とするため, 会議の参加者の活動を阻害せずに,詳細な分析が可能となっている. 会議中の議論と,会議の生産物である文書の対応を付けることにより, 同一の議題に関する議論がどの程度行なわれているか, 議論された議題が文書内にどのように反映されているかを 定量的/定性的に調査する分析を行なっている. 分析結果を通して, 会議では,議論結果が会議の出力として落丁してしまう, 結論が曖昧なままに会議が終了してしまう, 1つの議決が変更されたときにそれと関連のある議題の再審議を行なわず 矛盾を含む結果が残されたままになる危険があるなどの問題点が示されている. そして, それらの問題点が会議の質や効率を下げる原因となっていることを述べている.
第3章「ハイパー議事録システムの設計」では, 第2章で得られた結果を基に, 会議における議論の構造を,会議から作成される文書の構造と共にモデル化し, 本システムの設計を行なっている. 構造化を行なう枠組としてハイパーテキストを利用し, 会議における議論の内容と, 議事録などの文書の部分とを対応付けている. これによって, 会議における必要な議論内容を洩れなく文書に反映することができる. また, 文書の部分から,その部分に関する議論を参照することで, 従来の会議での問題点を克服できる.
第4章「システム利用のための方法」では, 本システムを効率的に使用するための方法, 特に実際の会議の記録をハイパー議事録としてシステムに入力する手順が 提案されている. 具体的には,通常の会議が時間をおいて複数回行なわれることが多いことに着目し, 会議と会議の間に前の会議の記録を構造化する個人モードと, 構造化された履歴をアクセスしながら議論を行なう会議モードの2つのモード での作業を繰り返すことにより, 段階的にハイパー議事録を詳細化する方法が述べられている.
第5章「ハイパー議事録システムの実現」では, 計算機ネットワークに接続された複数の計算機上に実装された

本システムのプロトタイプ

について述べている. このプロトタイプシステムは, 会議参加者の行為や発話をビデオ画像や音声のマルチモーダル情報として 計算機内に直接記録し, グラフィカル・ユーザーインタフェースを通して, それらの記録を容易に検索する機能を持つため, 文書化されていない過去の議論内容を効率的に参照できることが述べられている. このプロトタイプシステムのユーザーインタフェースの紹介を通して, 会議の進行を促進するために利用者に提供される検索機能を説明し, 本システムが適用性の高い実用的なシステムであることを述べている.
第6章「システムの運用実験と評価」では, 第5章で紹介したプロトタイプシステムを利用した運用実験の評価について述べている. 本実験は, 4人の作業者が4回の会議を通してソフトウェアシステムの要求仕様書を 作成する作業を対象としている. この運用実験を通して, 第2章で指摘した従来の会議の問題点が克服され, 会議の進行が促進されていることが示されており, この結果から本システムの設計の正当性を述べている. また, 運用実験を通して,システムの問題点を明らかにし, それらに対する解決法についての考察を行なっている.
第7章「おわりに」では, 本論文で得られた結果を要約し,いくつかの今後の課題および展望を示している.
以上を要するに, 本論文は, 会議を通して生産物を作成してゆく作業を支援するためのハイパー議事録システムを, プロトコル分析の結果を基に設計試作し,その評価について述べたものである. また, 実際の作業に対する適用においても十分有効な結果が得られており,

工学上,工業上貢献するところが大きい

. よって 我々 は, 本論文が博士(工学)の学位論文として十分価値あるものと認める.
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