Title: ソフトウェアの仕様化過程による人間の協調作業に関する研究
Author: 海谷 治彦.
Source: 修士論文, 東京工業大学, 東京都 目黒区大岡山2-12-1, Mar. 1991. (11590)
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修士論文発表会 1991年2月14日 およそ25分,多少音が小さい MP4 291MB
作成対象となるソフトウェアが複雑になるにつれ, 複数の人間が仕様化/設計作業に携わるようになった現状では, 協調作業 としての人間の活動を明らかにする必要がある. 我々は実際の仕様化過程の分析の方法を提案することで, 人間の協調作業を明らかにする足掛かりとする. 近年,ソフトウェア開発も含め, グループによる知的生産活動を支援する技術,グループウェア に関する研究が盛んに行なわれている. グループウェアを従来の支援技術と区別する重要な点として, Winograd は人間の協調構造に基づいて設計されていることを上げている. グループウェアの設計においてはグループ作業の構造を的確にとらえ, システムに反映させる必要がある. そのために作業のモデル化技術が重要な役割を演じることとなる. 例えば,WingradらのThe Coodinatorでは, 言語行為理論に基づくConversation Modelを開発し, その状態遷移に基づいて会話の進行管理を行なっている しかし,The Coodinatorはシステムで規定されている 会話規約に従うための作業の煩わしさが指摘されている. さらにこのシステムは一般的な用途に対して作られているので, ソフトウェアの仕様化過程の協調作業を支援するには 不十分な点がある. Marcaらは, グループウェアは実際の協調作業に 再利用できることが重要であると主張している. 彼らは,初期のグループウェアであるMonsterやXCPのように 作業の相互関係を定義することにより作業をモデル化したものは, 作業過程の少しの変化にも対応できないことを紹介し, 作業における時間に依存しない規則を定義することが 再利用可能なモデルを構築する鍵となると述べている. また協調作業のモデルを基にした協調作業支援系もいくつか提案されている. Marcaらは,自分達の提案した考えを基に, Winogradの考えを利用したCONTRACTというシステムを構築しているが, 彼ら自身の提案していた構築の鍵を生かしているようには 思えない. ConklinらのgIBISではIBIS(Issue Based Information System)モデル と呼ぶ議論の状態遷移モデルに基づいて設計討論用の ハイパーテキストシステムを設計している. ソフトウェア開発の分野では, 岸本らが, 劇場における脚本家から観客への意思伝達方法をヒントにした 劇場モデルという意思伝達のモデルを構築し, システム設計者からプログラマへの意思伝達を支援するツール,COMICS を実現した. 彼女らのモデルの着想は大変良い点をついているが, システムへの実装の時点でそのモデルが反映されいてるとはおもえない. 落水らは, 初心者から熟練者への技術移転の促進, 作業者間の意思伝達,合意形成,情報交換の促進 などの協調支援機能の実現を目標としたプロトタイプVela の開発を進めている. Bill Curtisは, 従来のソフトウェアプロセスのモデル化が ライフサイクルモデルや 個人レベルの活動や理想化されたグループ作業にかたよっている ことを批判し, グループ作業の効率を改善するソフトウェア開発過程のモデルが 必要であることを主張している. 彼は,従来の協調作業を支援する電子会議室 などがグループ作業の効率を改善することができず 中止になったことを紹介し, その原因は作業者が効果的に振舞えるような支援をしなかった ことにあると主張している. また彼は,大型のシステム開発においての根本的な問題として, グループ上の要求や設計の共通理解 の構築をあげ, 異なった分野の専門家が一緒になって知識の統合をする過程や, 対象とするソフトウェアの共通モデルを作り上げる必要がある コミュニケーション過程を 調査することが重要であると主張している. 本研究では,ソフトウェア開発における 複数の作業者の仕様化作業を分析するための枠組み --- 分析方法 --- を提案し, それをもとに協調作業モデルを構築した. 人間の協調作業の構造は,形式化された数学モデルを出発点としては, Curtisらの批判するような実際のグループ作業の効率を高めることの できない構造となる危険が大きい. 我々は実際の協調作業を分析することで協調作業の構造を明らかにする 方法をとった. そのために重要なのは,実作業を分析するための指針 --- 分析方法 --- を構築することである. 分析方法は現在のところまだ定説が存在しないため, 作業の分析を行ないながら分析方法を構築する方法をとった. 我々はまず始めに,ビデオカメラを用いて 実際のグループ作業の様子を記録し, それを繰り返し観察することにより 分析のための指針を少しずつ決定していった. 分析の中で得た指針を整理することにより, 分析方法を構築し, その分析方法を用いて, 記録したグループ作業の整理を行ない, ソフトウェアの仕様化作業における協調作業の構造のモデル化を試みた. 本論文の構成は以下のようになっている. 2章では,研究目的と研究作業のシナリオについて述べる. 3章では,実験記録から実験データを抽出する過程を示す. 4章では, 5章の実験データの分析を行ない, その分析結果に基づいた分析方法を構築する. そして,その方法を反映させた協調作業モデルを提案する. 6章では,分析方法と作業モデルの評価を行ない, それぞれのグループの作業をモデルの事例として整理,評価を行なう. さらに,ソフトウェアの仕様化作業における協調作業構造について 考察を行なう. 最後に7章で,まとめについて述べる.
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